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wagashizanmai
Tetsuya Nagata 永田 哲也

和紙+菓子=「和菓紙」

和紙と菓子。この二つが組み合わさって生まれたのが「和菓紙」です。
日本の伝統的な和菓子の木型を和紙で型取り、新たな現代アートとして生まれ変わらせました。


素材は西の内紙

和菓「子」ではなく、和菓「紙」ですから、食べられません。
目で見て甘みを感じてください。
独特の光沢と強くしなやかな風合いは、原材料とする紙に訳があります。
「西の内紙(にしのうちがみ)」と言って、茨城県を産地とする手漉きの和紙です。江戸時代、徳川光圀(とくがわみつくに・いわゆる水戸の黄門さま)により和紙の生産が奨励された中で誕生したもので、楮皮(「こうぞ」という木の皮)の繊維だけで作られています。その風合いは絹にも例えられ珍重されてきたそうです。しかし現在、その製造技術を継承するのはわずか2軒のみ。茨城県の指定無形文化財であると共に、記録作成等の措置を講ずべき国の無形文化財にも選ばれています。

原型は記憶

和菓紙三昧の形は、「祝いのきもち」の象徴です。日本には、七五三や結婚、長寿の祝いなど、古くから伝わる通過儀礼があります。かつては、それらの慶事の場に、「我が子が健やかに育ち、長生きできるように」といった、人々の想いや願いの込められた和菓子が、数多く捧げられてきました。鶴や亀、松竹梅など、縁起のいい動物や植物をモチーフに、日本各地で祝いのきもちを託された和菓子がつくられていたのです。これらの祝い菓子をつくる木型から、個々の和菓紙は起こされます。和菓紙三昧は、「KIOKUGAMI」と名付けられた作品シリーズのひとつです。「記憶」という個人の心象風景や社会の辿った歴史などの、それ自体としては目に見えないものを見えるものとして、紙を媒体にして写し取ることからから「記憶の紙」と呼ばれます。それは、和菓紙のみならず、例えば、機械や道路、樹木などを型として、その記憶が転写されたこともありました。和菓紙三昧によって吸い上げられた記憶が語るのは、祝い菓子をつくり続けた菓子型の、モノとしての存在の時空とそれを巡る人間の物語です。これらが、和菓紙三昧の原型です。

和菓紙三昧のヴィジョン

個性ある和菓紙たちのキャスティング、季節を意識した視野、仮想の設定のもとに構築された世界。それらいくつもの「記憶」の合成と、作家自身の創造性が重なり、ここにあらたなヴィジョンが現れます。そして、それを効果的に演出するのが光です。光は、和紙の繊維の隙間を通り抜けます。そこからほのかに輝きが発せられ、表層の浮き彫りが影響し合い、幻想的な陰影が生み出されます。その風情は、石像や木像彫刻とは異質な、独特の趣きがある、夢の中に誘う様な白く眩しい色を放っています。菓子木型一つひとつに集積された思いや願いが、時間の経過によって感光され、光の中に拡散していくからかもしれません。この白さ、作家自身の言葉では、「記憶の中に白く輝く心のオブジェ」と表現されています。

作品に白が多い理由

作品は水面のような表皮のイメージから来ています。本来は無色のイメージが近いのかも知れませんが人肌に近く有機的で型取りに適した西ノ内紙と云う素材が白いからです。

和紙は光を反射もしますが透過したり乱反射したり溜めたりします、そして軽く千年保つと云われています。和紙が創りだす陰影もその質感との相乗効果で様々な表情を見せてくれます。この和紙の「白」が新鮮で清らかで神聖な無心に帰るような浄化のイメージや見事、立派、善良などおめでたい祝いのイメージに結びつき幸せな喜びの「美」を自然に創りだしてくれます。「美味しそう」という幸せな感じも。

(和菓紙三昧スタッフ)